Partager

16話 共犯者

last update Date de publication: 2026-02-05 14:37:19

湊は私の腕を掴み、歩いて行く。途中、すれ違った看護師に言う。

「君、悪いが、あの特別室に清掃員をやってくれ」

湊はそう言いながらも私の腕を掴んで離さない。

「湊さん、痛いわ……」

弱々しくそう言ってみるけれど、湊は全く意に介さず、真っ直ぐに歩き、自分のオフィスへ入って行く。五年前に私と湊が話した、あの部屋……佐伯燈を絶望のどん底へ突き落したあの部屋だ。湊は部屋に入ると扉を閉め、やっと私の腕を離した。大きな溜息をつき、目頭を揉む。

「くるみ……何をしに来たんだ?」

まさか私が湊にそんな疑問を投げかけられる日が来るなんて。そう思いながらも私は言う。

「今日、湊さんが大きな、大事な手術をやるって聞いたから……。終わったら疲れているだろうし、少しでも湊さんの疲れを癒したくて……」

そう言って俯く。また、湊が大きな溜息をつく。

「さっきも言ったが、あの部屋は入っちゃいけない部屋なんだ。君には色々と便宜を図って来たし、この病院内を自由に歩き回っても誰も文句は言わなかったのかもしれないが」

湊はそこまで言って、言葉区切り、私を見る。

「もうここは君の自由に歩ける場所では無いんだよ」

そう言われて私
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   246話 清廉潔白

    私は高嶺と佐伯顧問の居る特別室を後にする。高嶺が体を起こし、動けるようになるまで、もう少し時間がかかるだろう。腕時計を見る。私たちがあのホテルの部屋を出てから1時間近く経っている。高嶺が佐伯顧問に渡してあった指輪に内蔵されていた麻酔薬は量から見ても、麻酔が切れるまでに30分程。もう八重樫一晟も覚醒しているだろう。高嶺の部下の人間に拘束させ、八重樫もまた、聖カトリーナに運び入れた。不測の事態を防ぐ為と、聖カトリーナに入って貰った方が都合が良かったからだ。高嶺の居る特別室を出て、聖カトリーナの地下へ向かう。そこは基本的には使わない場所だが、今回は特別に久遠先生にご協力を頂いた。入り口は一つ、そこは高嶺の部下が警備にあたっている。警備の人間は私を見ると一礼し、中へいれてくれる。コツコツと冷たい足音が響く。私は薄暗いその地下の廊下を歩き、一つの鉄製の扉の前に立つ。鉄格子のはめ込まれている小さな窓から中を覗く。中にはベッドが一台置いてあり、そこに八重樫一晟が横たわっていた。両手足に枷をはめられた状態で。ガチャン!!そんな大きな音がして鍵が開き、鉄製の扉が開く。その音で八重樫一晟は体を起こし、私を見る。「これはこれは、高嶺総帥の腰巾着の賀神くんじゃないか」こんな状態で何をどう言われようが、相手は脅威では無い。私は入り口付近に立ち、腕を組んで言う。「麻酔薬は切れたようだな」私がそう言った事で、八重樫一晟は眉間に皺を寄せて言う。「仮にも、私は君よりも上の人間だぞ、口を慎め」そう言われて私は思わず鼻で笑う。「口を慎むべきは、あなたの方ですよ、理事長」八重樫一晟はそう言った私を笑い、言う。「君のような清廉潔白な人間には、何も出来ないだろう?」八重樫一晟はそう言ってガチャガチャと手枷と足枷の音をさせながら、ベッドに腰掛ける。「あれは誤解だよ」そう言ってクスッと笑う八重樫一晟は私を見る。この男は本当に、心の底から私が一線を踏み越えないと思っているんだろう。鉄製の扉の前に待機している高嶺の部下に言う。「入れろ」私がそう言うと、カチャカチャと音を立てて、ステンレス製のサービングカートを押した高嶺の部下が入って来る。もう一人の部下は私にラテックスの手袋を差し出す。私は腕まくりをしてラテックスの手袋をする。「な、何をする気だ……?」運び入れられたステ

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   245話 看護

    聖カトリーナに入る。待ち構えていた湊が先導し、遼大は特別室に入り、早速、湊の指示で遼大の全身の検査が始まった。「何があった?」湊にそう聞かれて私は私たちに起こった事を説明する。検査に出た遼大には賀神さんが付き添った。私から話を聞いた湊が聞く。「それで、八重樫一晟は?」私は首を振る。「遼大の部下の人たちに任せて来たから、彼がどうしているのかは私は知らないわ」私がそう言うと湊は苦笑する。「まぁ、高嶺さんの事だから、ただでは済まさないだろうけどな」以前、千堂彰を捕らえた時もそうだった。遼大は秘密裏に秘匿施設へ千堂彰を連れて行き、拘束した。今度もまたEMSO内部のゴタゴタなのだ、きっと遼大は部下の人に何か指示を出しているだろうと思えた。「じゃあ現場に愛沢くるみは居なかった訳か」湊にそう言われて私も頷く。「えぇ、ホテルの部屋には私と遼大と八重樫一晟、その部下の人しか居なかったわ」湊が考え込む。「じゃあ愛沢くるみは……千堂弘と一緒って事か」千堂弘……白髪の青年で、あの千堂彰に異母弟。「千堂家に居るのかしら」そう呟くように言うと湊が言う。「そうかもしれないな。だが……」湊が難しい顔をする。「俺たちが千堂家に行って、仮にそこに愛沢くるみが居たとしても、千堂家に入る理由が俺たちには無い」そう言われてしまうと、その通りだ。しかも愛沢くるみは自分の意志で彼らについて行ったのだ。でも今はそれを主導していた八重樫一晟は拘束されている筈だ。という事は今は千堂弘一人で動いているのだろうか。「検体って言ってたわよね……」私がそう言うと湊が苦笑する。「言ってたな……」愛沢くるみを検体と呼び、検体と呼ぶからには、その先には……そう想像してゾッとする。「とにかく今は、高嶺さんの体の心配が先だ。八重樫一晟についても調べたら色々と出て来るかもしれない」◇◇◇遼大の検査結果が出た。「やはり思った通り、筋弛緩剤の類でしたね」賀神さんがそう言う。「じゃあ特別な薬品の投与なんかはしないで済みそうね」私はそう言ってホッと胸を撫で下ろす。ベッドに寝かされた遼大が言う。「ハイドレーションを始めてくれ」そう言われて私も賀神さんも互いに顔を見合わせて頷き合う。すぐに点滴の用意が始まった。「高嶺、お前はどっちが良い?」賀神さんがそう聞く。「何が?」遼

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   244話 仕掛け

    部屋の扉が急にバン! と開いた。振り返るとそこには駆け込んで来た賀神さんが居た。「高嶺! 佐伯顧問!」そう叫びながら入って来た賀神さんは、私たちを見て、駆け寄って来る。「高嶺!」そう言いながら遼大を抱えている私に言う。「代わります」そう言って遼大の腕の下へ頭を入れて、遼大を支える。ドカドカと数人の黒スーツの人間がなだれ込んで来る。「総帥!」そのうちの一人がそう叫ぶ。(遼大の部下の人たちなのね)そう思うとホッとする。「燈……」遼大が呼ぶ。「居るわ、ここに居る」そう言って遼大を支えている賀神さんとは反対側に回り、遼大に寄り添う。◇◇◇すぐに遼大を運び出し、聖カトリーナへ搬送する。その間、賀神さんが冷静に遼大の体の状態を診察する。「何か薬品を嗅がされたんですね?」賀神さんにそう聞かれて私は頷く。「えぇ、嗅いだ事のあるような、そんな気がしたわ」賀神さんがそれを聞き、遼大に聞く。「高嶺、今、どんな感じだ?」そう聞かれた遼大が言う。「確かに麻痺はある……手足が痺れている……だが意識はあるし、聴覚も触覚もちゃんとある」そう聞かされた賀神さんが少し考える。「筋弛緩薬に近いのかもしれないですね」動かしにくいであろうその手を動かして、遼大は隣に座る私に手を伸ばす。「ん? 何?」そう聞きながら私はその手を取って、握る。「握っててくれ……」遼大がそう言う。不意に賀神さんが笑い出し、聞く。「こんな状態なのに、どうやって八重樫一晟をあんな状態に?」それは私も聞きたい事だった。あの時、私は動揺していて、何も状況の判断が出来ていなかった。けれど自分がやるべき事だけはしっかりと分かった。八重樫一晟を指輪の麻痺薬で麻痺させる事……。「不測の事態に備えて色々と、備えはあったんだ……」言いながら遼大は視線で自身の着ていたジャケットを指す。「ここに俺が触れると、首元から俺自身に強化剤が打ち込まれる。それで一時的に俺の体はアドレナリンが放出される……」つまりその強化剤であの噴霧された麻痺薬を上回った、という事……。「八重樫一晟は俺を脅威として排除出来たと思ったんだろう、俺を椅子に座らせた。その時にベルトに仕込んであった針金を出し、手錠の開錠をした……」遼大がそう言うと賀神さんが笑う。「お前……あの錠抜けをやったのか?」そう笑

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   243話 打ち砕かれる野望

    八重樫一晟が私に近付く。(ちゃんとチャンスを見極めるのよ)そう言い聞かせながら私は近付く八重樫一晟を見ながら警戒する。「そんなに怯えなくても良い……痛い事はなるべくしないよう、心がける」そう言いながら八重樫一晟はジャケットを脱ぐ。その動作を見て私は悟る。(そうか、八重樫一晟は遼大の目の前で私を抱くつもりなのね)「こんな事をしても何も変わらないわ」私がそう言うと八重樫一晟は締めていたタイを緩めながら言う。「そうか? 本当に何も変わらないと言えるか?」そう言いながら八重樫一晟は私の目の前まで来る。(まだよ……まだ……)私は、はやる心を落ち着かせながら、八重樫一晟が近付くのを待った。次の瞬間だった。私の目の前で八重樫一晟が後方へ吹っ飛んだ。一瞬、何が起こったのか分からず、ポカンとする。「燈……大丈夫か?」そう聞かれてハッとして私は振り返る。そこには手錠を外し、ソファーの背もたれに片手をついて息を切らしている遼大が居た。「遼大……!」私は立ち上がり、遼大へ振り返る。遼大は立っているのがやっと、という状態のように見える。(でもじゃあ、どうして八重樫一晟は後ろへ吹っ飛んだの?)そう思って振り返る。八重樫一晟はコーヒーテーブルの上を派手に転がり、更に後方の床に転がっている。そこまで吹っ飛んだというのに、私の耳はその音すら察知していなかった。「お前……何で……」そう呻きながら八重樫一晟が遼大を見ている。「燈……あいつを……」そう言われてハッとして私は頷き、八重樫一晟の元へ駆け寄り、指輪の麻酔薬を八重樫一晟の首元に打ち込んだ。「止め……」そう言って私の行動を阻止しようとした八重樫一晟の手が落ちる。ガクッと気を失ったのを見届けて私は八重樫一晟の胸元へ手を突っ込んで、拮抗薬を取り出す。それを持って遼大の元へ駆け寄り、小瓶の蓋を開けて、手を止める。(待って、これが本当に拮抗薬だと確信は無いわ……)そう思って私はその拮抗薬を投げ捨てる。拮抗薬の入った小瓶が割れる。「そうだ、それで良い……」遼大がまた膝から崩れる。「遼大……!」私はそんな遼大を支えながらスマホを出す。(泣くのは後よ……しっかりしなさい、燈!)◇◇◇行く先はホテルだと聞いていたのに、扉が開いて、外に出たらそこはホテルなどでは無かった。「降りろ」扉を開け

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   242話 均衡

    八重樫一晟は笑いながら、更に言う。「高嶺総帥、心配には及びませんよ。その薬品は体の自由を奪いますが、基本的には無害ですし、意識もちゃんと保てているでしょう?」私は両腕を八重樫一晟の部下に掴まれながら、振り返る。遼大は私と同じく八重樫一晟の部下に両腕を掴まれ、強制的に立ち上がらされ、支えられながら椅子に座らされる。遼大は力なく椅子に座ったけれど、八重樫一晟の言う通り、意識は保てているからか、その目は鋭い。私はここへ来る前に遼大から渡された指輪の事を思い出す。けれど私の両側に居る男たちで二人、私の指輪でその二人を麻痺させたとしても、遼大の傍に二人、そして目の前に八重樫一晟が居る。この指輪一つで何とかなる状況では無い。どうするのが一番良いのか。(考えて! ……考えるのよ、私!)自分にそう言い聞かせながら、私は八重樫一晟を見る。「気が変わったと、そう言ったわね?」私がそう言うと八重樫一晟がニヤッと笑いながら言う。「えぇ、気が変わったんですよ。佐伯顧問……いや、燈さん」名前を呼ばれてゾッとする。そうされて私は目の前のこの男の目的がやっと分かった気がした。この男の目的は遼大じゃなくて、私だ。遼大と話し合いをするつもりで私たちを呼び出したけれど、遼大がどれだけ私の為に動いているかは、今までの事を調べれば分かるだろう。それらの事を踏まえれば、遼大の一番の弱点が私だという事も明白。前に賀神さんがそう言った事を思い出す。遼大は何を犠牲にしても私を守るとそう言ったのだ。だから遼大は新見悟の振り回す刃の前に身を投げ出して私を守ったのだから。でも、どうやって?私が遼大を愛していて、遼大を裏切るなんて起こり得ない事だ。いくら遼大を拘束しようが、私に強制しようが、私の心までは変えられない。八重樫一晟は部下が掴んでいる私の腕を掴む。「離して良い」八重樫一晟がそう言うと、私の腕を掴んでいた部下の一人が言う。「ですが……」そう言われた八重樫一晟がその部下を睨み付け、言う。「良いから離せ」そう言われた八重樫一晟の部下が私の腕を離した。私は八重樫一晟一人に腕を掴まれている状態になる。「燈に……触れるな……」背後で遼大がそう言う。八重樫一晟はそれを笑い、私を引き寄せて言う。「大人しくしている方が、あなたの為でもあるし、高嶺総帥の為でもあるんですよ、分か

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   241話 拘束

    私と遼大はホテルの部屋を出て、八重樫一晟の指定したホテルに向かう。本当ならこちらからも場所の指定をすべきだったのだろうけれど、八重樫一晟がそれをさせなかった、というのもある。私たちは不測の事態を考えて、それぞれが配置につく事にした。実際に八重樫一晟に会いに行くのは私と遼大、そしてその八重樫一晟の居る部屋の近くに賀神さんが、加山良江には愛沢くるみの端末の動きを逐一探って貰い、湊には公的な人間たちのとパイプ役を担って貰った。湊も賀神さん同様、現場に出たがっていたけれど、今回はそれを我慢してもらう形にを取った。私や遼大、賀神さんは現状、国内の医療機関の制約を受けていない。EMSOという組織内のいざこざという側面もある。愛沢くるみが本人の意思で八重樫一晟に付いて行ったのだから、言ってしまえばそれも自己責任の一環だ。そして湊にはそれを止める手立てが無い。「アストリア・メトロポールに向かってくれ」遼大が運転手にそう告げる。私たちが宿泊している【ル・ヴァンドーム】から、八重樫一晟が宿泊している【アストリア・メトロポール】までは、それほど時間はかからない。ヴァンドームもアストリアも国内では最高峰のホテルだ。ヴァンドームは老舗、アストリアは最近出来た先鋭的なホテルだ。アストリアは先鋭的なホテルと言われるだけあって、現代美術品がホテルのフロントに飾られ、異質な雰囲気を醸し出している。私たちがフロントに入ると、アイスグレーのスーツを着た数人の男性たちに囲まれる。八重樫一晟の部下だろう。「高嶺遼大様、佐伯燈様ですね?」そう冷たい無機質な声で聞かれて遼大が警戒しながら頷く。「あぁ、そうだ」そう言うとその男性が言う。「一晟様がお待ちです」そう言って私たちを促す。数人の男性に囲まれて歩いている私たち二人は相当、異質だっただろう。こういう扱いをされると、本当に敵陣に来たのだなと思う。エレベーターで階上へ上がり、ポーンという電子音の後、開いたエレベーターの扉の向こうは、当然のようにスイートルームだった。大きなスイートルームの扉が開くと、目の前の光景がパッと開く。部屋全体がアイスグレーに統一されていて、無機質で冷たい印象の部屋だった。「高嶺総帥、そして佐伯燈さん、良くいらっしゃいました」そういう声が聞こえて、姿を現したのは、その部屋の色にでも染まったかのような八重樫一

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status