Share

16話 共犯者

last update publish date: 2026-02-05 14:37:19

湊は私の腕を掴み、歩いて行く。途中、すれ違った看護師に言う。

「君、悪いが、あの特別室に清掃員をやってくれ」

湊はそう言いながらも私の腕を掴んで離さない。

「湊さん、痛いわ……」

弱々しくそう言ってみるけれど、湊は全く意に介さず、真っ直ぐに歩き、自分のオフィスへ入って行く。五年前に私と湊が話した、あの部屋……佐伯燈を絶望のどん底へ突き落したあの部屋だ。湊は部屋に入ると扉を閉め、やっと私の腕を離した。大きな溜息をつき、目頭を揉む。

「くるみ……何をしに来たんだ?」

まさか私が湊にそんな疑問を投げかけられる日が来るなんて。そう思いながらも私は言う。

「今日、湊さんが大きな、大事な手術をやるって聞いたから……。終わったら疲れているだろうし、少しでも湊さんの疲れを癒したくて……」

そう言って俯く。また、湊が大きな溜息をつく。

「さっきも言ったが、あの部屋は入っちゃいけない部屋なんだ。君には色々と便宜を図って来たし、この病院内を自由に歩き回っても誰も文句は言わなかったのかもしれないが」

湊はそこまで言って、言葉区切り、私を見る。

「もうここは君の自由に歩ける場所では無いんだよ」

そう言われて私
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   248話 眠れる龍

    「八重樫理事長が捕まった?」私がそう聞くと目の前の乙藤氏が満足そうに頷く。「あぁ、遼大くんの手でな」乙藤氏は私を見て片眉を上げる。「遼大くんは今、日本で八重樫一晟の不正を八重樫一晟本人から聞いているところだそうだ」乙藤氏が私を見て身を乗り出す。「君は、どうするかね? 本宮くん」八重樫一晟は反高嶺派の筆頭。高嶺遼大の事が気に入らず、以前から邪魔だと思っていた私とも意気投合し、反高嶺で今までタッグを組んで来たが。八重樫一晟が落ちた今、反高嶺派は消滅するだろう。私一人では牽引出来ない……それ程までに高嶺遼大は完璧な人間だった。五年前にあの女、佐伯燈がEMSOに入局して、状況が少しずつ変わったと思ったが。しかも八重樫一晟の不正については、反高嶺派の人間のほとんどが一枚噛んでいる状態だ。つまりは関わっている人間全員が、今回の事で吊し上げられるだろう……私も含めて。がっくりと肩を落としている私に乙藤氏が言う。「八重樫一晟はやり過ぎたんだ。佐伯燈には手を出してはいけなかった」そう言われて顔を上げる。「あの女が何だって言うんですか!?」思わずそう聞くと乙藤氏が微笑む。「君は佐伯燈と話した事があるか?」そう聞かれて私は曖昧に首を振る。「あまり覚えてはいませんが、言葉を交わした事くらいはあるでしょう」そう言うと乙藤氏が私の顔を覗き込む。「佐伯燈と話してみて、感じなかったか? 遼大くんの庇護を」そう言われてみれば、佐伯燈の周囲には、まるで護衛のようにいつも高嶺遼大が居た。「佐伯燈は遼大くんの唯一の弱点であり、逆鱗なんだ」逆鱗……触れれば激高し、荒ぶり、誰も止める事が出来ないとされるもの……。「君が佐伯燈のデータを真壁早妃に書かせていた事も遼大くんは把握済みだ」乙藤氏は静かにそう言って、大きく息をつく。「眠れる龍は眠らせておいた方が良い。むやみに起こすものでは無い」今や強大になった高嶺家。EMSO創設当時はそれ程、強い家柄では無かったが、高嶺遼大の祖父の代から始まり、今の高嶺遼大に引き継がれた高嶺家はその規模も権力も絶大になっている。◇◇◇「さて、じゃあ八重樫一晟に会いに行くか」遼大がそう言って立ち上がる。「ダメよ、まだ動いたら」私がそう言っても遼大は微笑んで私に言う。「大丈夫。今回、怪我はしてないんだ。薬は抜けた」

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   247話 特異体質

    「それで?」そう聞くと賀神さんは少し愉快そうに笑いながら、言う。「別に普通に採血しただけです」そう言う賀神さんに笑う。「でも注射器持って近付いて来られたら、怖くて逃げちゃうわね」私が笑いながらそう言うと賀神さんが眼鏡のブリッジを指でクイッと上げながら言う。「八重樫も逃げていましたよ。高嶺の部下が押さえて何とか採血しましたが」遼大が少し笑いながら聞く。「それで八重樫は何か他にも吐いたか?」そう聞かれた賀神さんが微笑む。「えぇ。EMSO内でどれだけの人間が八重樫側の不正に関わっていたのか、と……」そこまで言って賀神さんがスッと表情を硬くする。「愛沢くるみを千堂家に送った事、そしてその目的を」そう言われて私は聞く。「目的は一体、何なの?」そう聞くと賀神さんが少し溜息をついて言う。「千堂弘の目的は愛沢くるみの体に残る愛欲の女王の症状とその進行具合、そしてこれが一番重要なんですが」賀神さんはそこで言葉を区切り、私たち二人を見る。「どうやら愛沢くるみは特異体質のようで、可能性として愛欲の女王を中和するかもしれない可能性があるそうです」◇◇◇私はベッドに縛り付けられて、腕に何か刺される。見ればそれは点滴の針のように見えた。「何をするの?」震える声でそう聞くと白髪の青年・千堂弘は少し笑って言う。「何もしませんよ。あなたの体のメカニズムが見たいだけです」そう言われて私は聞く。「メカニズム?」そう聞くと千堂弘は面倒そうに言う。「私の兄は今まで素晴らしい研究をして来たんですよ。その最高峰がEMSO日本支局の地下にあるレプリトール・ディザスターという悪魔の薬。その原型として作られた愛欲の女王をあなたは長きにわたって使っている」私の腕に刺された針から私の血が伝い、チューブの中へ流れ込んでいくのが見える。「それなのにあなたはピンピンしている。兄はそれを代謝が良いからだと言っていましたが僕はそう思っていないんですよ」そう言ってチューブに流れて行く私の血を試験管の中に流し込む。「だから僕はあなたの体のメカニズムが一般人とどう違うのかを見たいんです」そう言って試験管の中に入った私の血を眺め、ニヤッと笑う。「それならそれで、私をこんなふうに拘束する必要性、無いじゃない」私がそう言うと千堂弘が私を見る。「もちろん、実験はしますよ。あ

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   246話 清廉潔白

    私は高嶺と佐伯顧問の居る特別室を後にする。高嶺が体を起こし、動けるようになるまで、もう少し時間がかかるだろう。腕時計を見る。私たちがあのホテルの部屋を出てから1時間近く経っている。高嶺が佐伯顧問に渡してあった指輪に内蔵されていた麻酔薬は量から見ても、麻酔が切れるまでに30分程。もう八重樫一晟も覚醒しているだろう。高嶺の部下の人間に拘束させ、八重樫もまた、聖カトリーナに運び入れた。不測の事態を防ぐ為と、聖カトリーナに入って貰った方が都合が良かったからだ。高嶺の居る特別室を出て、聖カトリーナの地下へ向かう。そこは基本的には使わない場所だが、今回は特別に久遠先生にご協力を頂いた。入り口は一つ、そこは高嶺の部下が警備にあたっている。警備の人間は私を見ると一礼し、中へいれてくれる。コツコツと冷たい足音が響く。私は薄暗いその地下の廊下を歩き、一つの鉄製の扉の前に立つ。鉄格子のはめ込まれている小さな窓から中を覗く。中にはベッドが一台置いてあり、そこに八重樫一晟が横たわっていた。両手足に枷をはめられた状態で。ガチャン!!そんな大きな音がして鍵が開き、鉄製の扉が開く。その音で八重樫一晟は体を起こし、私を見る。「これはこれは、高嶺総帥の腰巾着の賀神くんじゃないか」こんな状態で何をどう言われようが、相手は脅威では無い。私は入り口付近に立ち、腕を組んで言う。「麻酔薬は切れたようだな」私がそう言った事で、八重樫一晟は眉間に皺を寄せて言う。「仮にも、私は君よりも上の人間だぞ、口を慎め」そう言われて私は思わず鼻で笑う。「口を慎むべきは、あなたの方ですよ、理事長」八重樫一晟はそう言った私を笑い、言う。「君のような清廉潔白な人間には、何も出来ないだろう?」八重樫一晟はそう言ってガチャガチャと手枷と足枷の音をさせながら、ベッドに腰掛ける。「あれは誤解だよ」そう言ってクスッと笑う八重樫一晟は私を見る。この男は本当に、心の底から私が一線を踏み越えないと思っているんだろう。鉄製の扉の前に待機している高嶺の部下に言う。「入れろ」私がそう言うと、カチャカチャと音を立てて、ステンレス製のサービングカートを押した高嶺の部下が入って来る。もう一人の部下は私にラテックスの手袋を差し出す。私は腕まくりをしてラテックスの手袋をする。「な、何をする気だ……?」運び入れられたステ

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   245話 看護

    聖カトリーナに入る。待ち構えていた湊が先導し、遼大は特別室に入り、早速、湊の指示で遼大の全身の検査が始まった。「何があった?」湊にそう聞かれて私は私たちに起こった事を説明する。検査に出た遼大には賀神さんが付き添った。私から話を聞いた湊が聞く。「それで、八重樫一晟は?」私は首を振る。「遼大の部下の人たちに任せて来たから、彼がどうしているのかは私は知らないわ」私がそう言うと湊は苦笑する。「まぁ、高嶺さんの事だから、ただでは済まさないだろうけどな」以前、千堂彰を捕らえた時もそうだった。遼大は秘密裏に秘匿施設へ千堂彰を連れて行き、拘束した。今度もまたEMSO内部のゴタゴタなのだ、きっと遼大は部下の人に何か指示を出しているだろうと思えた。「じゃあ現場に愛沢くるみは居なかった訳か」湊にそう言われて私も頷く。「えぇ、ホテルの部屋には私と遼大と八重樫一晟、その部下の人しか居なかったわ」湊が考え込む。「じゃあ愛沢くるみは……千堂弘と一緒って事か」千堂弘……白髪の青年で、あの千堂彰に異母弟。「千堂家に居るのかしら」そう呟くように言うと湊が言う。「そうかもしれないな。だが……」湊が難しい顔をする。「俺たちが千堂家に行って、仮にそこに愛沢くるみが居たとしても、千堂家に入る理由が俺たちには無い」そう言われてしまうと、その通りだ。しかも愛沢くるみは自分の意志で彼らについて行ったのだ。でも今はそれを主導していた八重樫一晟は拘束されている筈だ。という事は今は千堂弘一人で動いているのだろうか。「検体って言ってたわよね……」私がそう言うと湊が苦笑する。「言ってたな……」愛沢くるみを検体と呼び、検体と呼ぶからには、その先には……そう想像してゾッとする。「とにかく今は、高嶺さんの体の心配が先だ。八重樫一晟についても調べたら色々と出て来るかもしれない」◇◇◇遼大の検査結果が出た。「やはり思った通り、筋弛緩剤の類でしたね」賀神さんがそう言う。「じゃあ特別な薬品の投与なんかはしないで済みそうね」私はそう言ってホッと胸を撫で下ろす。ベッドに寝かされた遼大が言う。「ハイドレーションを始めてくれ」そう言われて私も賀神さんも互いに顔を見合わせて頷き合う。すぐに点滴の用意が始まった。「高嶺、お前はどっちが良い?」賀神さんがそう聞く。「何が?」遼

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   244話 仕掛け

    部屋の扉が急にバン! と開いた。振り返るとそこには駆け込んで来た賀神さんが居た。「高嶺! 佐伯顧問!」そう叫びながら入って来た賀神さんは、私たちを見て、駆け寄って来る。「高嶺!」そう言いながら遼大を抱えている私に言う。「代わります」そう言って遼大の腕の下へ頭を入れて、遼大を支える。ドカドカと数人の黒スーツの人間がなだれ込んで来る。「総帥!」そのうちの一人がそう叫ぶ。(遼大の部下の人たちなのね)そう思うとホッとする。「燈……」遼大が呼ぶ。「居るわ、ここに居る」そう言って遼大を支えている賀神さんとは反対側に回り、遼大に寄り添う。◇◇◇すぐに遼大を運び出し、聖カトリーナへ搬送する。その間、賀神さんが冷静に遼大の体の状態を診察する。「何か薬品を嗅がされたんですね?」賀神さんにそう聞かれて私は頷く。「えぇ、嗅いだ事のあるような、そんな気がしたわ」賀神さんがそれを聞き、遼大に聞く。「高嶺、今、どんな感じだ?」そう聞かれた遼大が言う。「確かに麻痺はある……手足が痺れている……だが意識はあるし、聴覚も触覚もちゃんとある」そう聞かされた賀神さんが少し考える。「筋弛緩薬に近いのかもしれないですね」動かしにくいであろうその手を動かして、遼大は隣に座る私に手を伸ばす。「ん? 何?」そう聞きながら私はその手を取って、握る。「握っててくれ……」遼大がそう言う。不意に賀神さんが笑い出し、聞く。「こんな状態なのに、どうやって八重樫一晟をあんな状態に?」それは私も聞きたい事だった。あの時、私は動揺していて、何も状況の判断が出来ていなかった。けれど自分がやるべき事だけはしっかりと分かった。八重樫一晟を指輪の麻痺薬で麻痺させる事……。「不測の事態に備えて色々と、備えはあったんだ……」言いながら遼大は視線で自身の着ていたジャケットを指す。「ここに俺が触れると、首元から俺自身に強化剤が打ち込まれる。それで一時的に俺の体はアドレナリンが放出される……」つまりその強化剤であの噴霧された麻痺薬を上回った、という事……。「八重樫一晟は俺を脅威として排除出来たと思ったんだろう、俺を椅子に座らせた。その時にベルトに仕込んであった針金を出し、手錠の開錠をした……」遼大がそう言うと賀神さんが笑う。「お前……あの錠抜けをやったのか?」そう笑

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   243話 打ち砕かれる野望

    八重樫一晟が私に近付く。(ちゃんとチャンスを見極めるのよ)そう言い聞かせながら私は近付く八重樫一晟を見ながら警戒する。「そんなに怯えなくても良い……痛い事はなるべくしないよう、心がける」そう言いながら八重樫一晟はジャケットを脱ぐ。その動作を見て私は悟る。(そうか、八重樫一晟は遼大の目の前で私を抱くつもりなのね)「こんな事をしても何も変わらないわ」私がそう言うと八重樫一晟は締めていたタイを緩めながら言う。「そうか? 本当に何も変わらないと言えるか?」そう言いながら八重樫一晟は私の目の前まで来る。(まだよ……まだ……)私は、はやる心を落ち着かせながら、八重樫一晟が近付くのを待った。次の瞬間だった。私の目の前で八重樫一晟が後方へ吹っ飛んだ。一瞬、何が起こったのか分からず、ポカンとする。「燈……大丈夫か?」そう聞かれてハッとして私は振り返る。そこには手錠を外し、ソファーの背もたれに片手をついて息を切らしている遼大が居た。「遼大……!」私は立ち上がり、遼大へ振り返る。遼大は立っているのがやっと、という状態のように見える。(でもじゃあ、どうして八重樫一晟は後ろへ吹っ飛んだの?)そう思って振り返る。八重樫一晟はコーヒーテーブルの上を派手に転がり、更に後方の床に転がっている。そこまで吹っ飛んだというのに、私の耳はその音すら察知していなかった。「お前……何で……」そう呻きながら八重樫一晟が遼大を見ている。「燈……あいつを……」そう言われてハッとして私は頷き、八重樫一晟の元へ駆け寄り、指輪の麻酔薬を八重樫一晟の首元に打ち込んだ。「止め……」そう言って私の行動を阻止しようとした八重樫一晟の手が落ちる。ガクッと気を失ったのを見届けて私は八重樫一晟の胸元へ手を突っ込んで、拮抗薬を取り出す。それを持って遼大の元へ駆け寄り、小瓶の蓋を開けて、手を止める。(待って、これが本当に拮抗薬だと確信は無いわ……)そう思って私はその拮抗薬を投げ捨てる。拮抗薬の入った小瓶が割れる。「そうだ、それで良い……」遼大がまた膝から崩れる。「遼大……!」私はそんな遼大を支えながらスマホを出す。(泣くのは後よ……しっかりしなさい、燈!)◇◇◇行く先はホテルだと聞いていたのに、扉が開いて、外に出たらそこはホテルなどでは無かった。「降りろ」扉を開け

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status